美術評論:村上哲史のギャラリー拝見 ____________

ひのみね長屋に戻る__前のページへ 次ぎのページ アトリエ探訪へ__switch to English site__bluepageへ戻る 

其の12

高丸公相彫刻展

wake up gallery (ウェイクアップギャラリー)にて

開催期間2003年11月21日より30日まで

 えっとぶりです。ほんまにえっとぶり。去年の10月に【森羅万象展】を拝見して以来だから、実に1年以上もさぼってました。ボクも幸田さんも井浦さんもお互いに忙しくなってスケジュールを合わせにくくなったということもあるのですが、今回の取材で「忙しいというのはただの言い訳にすぎなかった」というのがよく分かりました。反省です。

 でも、この時期、展覧会は少ないんですね。もう少し早く気が付けばいろんなものを選べたと思うのですが、少しの違いでグンと減る。また、今回NHKのカメラが入るということで絞っていくと、ここしかなかったわけです。

 とはいうものの、高丸さんとは何の面識もありません。メールで簡単な説明をして承諾は頂いていたのですが、高丸さんの年齢も人となりもどんな作品を作るのかもまったく分からないわけです。仕方なく、ここはギャラリー拝見の原点に立ち返って突撃取材を敢行することにしました。


 ギャラリーに着くと、すでに高丸さんが待ってくれていました。思っていたよりずっと若いのにまずびっくり。ボクらは『公相』という名前と案内ハガキの作品の完成度から、勝手に40代か50代ぐらいかなと決めつけていたようです。日頃「常識や概念に囚われないようにしよう」と心掛けているにも関わらず、やっぱり概念的なイメージが先行してしまいます。またもや反省。

 ちなみに『高丸公相(たかまるこうしょう)』というのは本名だそうです。

カタマル・コショーとゆうペンネームの方と同一人物かも←coda加筆(?_?);;

 作品は、入り口付近の小品群と奥の3つの大作です。そして上の写真でも分かると思いますが、この3つの作品はウェイクアップギャラリーのこの空間に実にマッチしていました。「作品の見せ方について気を付けているところは?」と質問してみたところ、「水平と垂直には気を遣いますが、あとは臨機応変」と言いつつも、「友達の個展の作品搬入のときこの空間を見て、ふわっとしていてスコーンとした空間をつくりたいと思い、今回だいたいイメージ通り出来ました」とも言っていました。


作品の素材は樹脂。まず、粘土で原型を作り、石膏で型どりをして、そこにじ樹脂を流し込むというのが制作の手順。そして、樹脂そのままの色ではイメージに合わなかったので、今回は白く塗ってみたそうです。

また、なぜ樹脂を素材に選んだのという質問には次のように答えてくれました。

「今まで自分の制作は、粘土を中心にやってきました。粘土で作った作品は、型取りして違う素材に置き換えるか、そのまま焼いてしまうかしないと輸送出来ません。現実的な問題として、ウェイクアップギャラリーに作品を搬入するときに、人力であの階段を持って上がる事を考えると、軽くて強い樹脂が向いていると思いました。しかしその反面、樹脂という素材は、他の彫刻の素材(石、木、金属)などに比べて、素材的な魅力を出すのが難しい。前回の個展では、樹脂に砕いたテラコッタ(素焼き)を混ぜて、樹脂にも焼き物にも見える不思議な素材感を狙いました。しかし、終わってみると、やっぱり本当は土を焼きたかったんだろうなぁと思いました。今回はそんな自分のこだわりを一度すべて捨て去るために、樹脂を樹脂として見せることに、初めて正面切って取り組んでみました。ただ、僕は素材を限定して制作していくつもりはないので、来年は、石や木を彫ってるかも知れません。無意識に自分で自分を縛っていることに気付いたら破りたくなるもんで・・・。」

 高丸さんの作品作りのテーマは「彫刻と人との時間」。観賞するだけのものではなくて、触ったり座ったりして、作品と人が時間を共有していくことに興味があるとのことです。タイトルは【雲のゆりかご】。「完成して上に寝転んだ時そう感じました。寝転んでみますか」の言葉に、それならばと飛び移ろうとしましたが、さすがにそれは危ないということで、高丸さんにお手伝いしていただきました。体重53kgのボクをヒョイと持ち上げ車椅子から作品へ。さすがに彫刻をしている人は力持ちです。

 【雲のゆりかご】の上は堅くて冷たかったです。樹脂で出来ているから当たり前なのですが、イメージとしてふわふわで暖かいものに思えていました。そんなことはあるわけないのにね。実は飛び移ろうとしたのも、このイメージのせいです。あのまま飛び移っていたらほんとに怪我をしていました。危ない危ない。でも、しばらく寝転んでいると、何かに包まれているような暖かい気持ちになってきたんですよ。【雲のゆりかご】は伊達ではありません。

左の写真では一見怪しげな撮影に見えなくもありませんが、彼らはNHKの福祉番組『きらっといきる』の撮影チームです。このところずっとボクに張り付いて取材していて、この日も朝から撮影でした。「あたし達はいないと思って普段通りにやってください」なんて言われてもねぇ。でも、NHKさんのおかげで今回のギャラリー拝見が久々に出来たといっても過言ではありません。感謝感謝です。

 ちなみに、このもようが放映されるのは1月24日(土)午後6時からの教育テレビです。良かったら見て下さい。

 高丸さんの作品は、ほとんどが手をデフォルメしたものです。なぜ「手」なのか尋ねたところ、「人と人がコミュニケーションをとるとき使うのは「言葉」「目」「手」であり、その時、手は「鎖」「壁」「優しく包むもの」等々、色んな役割を果たします。これらの要素を一つだけ抜き出し、他のものを削ぎ落として作品にしていくのがおもしろいんです」と答えてくれました。

 ボクは【雲のゆりかご】に寝転んだあと、手前の作品にも座らせてもらったのですが、ここから見た眺めがまた素晴らしかった。【雲のゆりかご】がお釈迦様の手に、そして奥の作品がこの世の果てに見えてきたのです。西遊記の1シーンに、お釈迦様の手のひらから抜け出して世界の果てまで行ってきたつもりがお釈迦様の掌で踊らされていただけだったという場面がありますが、この空間がまさにそれであり、世界のすべてがこの空間の中にあるように思えたのです。高丸公相おそるべし。

 高丸さんのプロフィールは下のとおり。

1992 徳島県立城北高校卒業。その後、名古屋 河合塾美術研
究所で、美大受験のため浪人。

1993 金沢美術工芸大学彫刻科入学

1997 金沢美術工芸大学彫刻科卒業 同学大学院入学

1999 金沢美術工芸大学大学院彫刻科修了。その後金沢でバイ
トをして旅費をため 11月末から二ヶ月間 ヨーロッパとエジプ
トを旅行。

帰国後、金沢でバイトしながら制作。

2001 徳島に帰郷、非常勤講師をしながら制作。 

2002 wake up にて、初個展。 


 入り口付近の小品についても少し紹介します。

 これらは、大作の合間に気分転換に作ってみることが多いそうです。制作時間は30分から1時間程度。針金をいじっていると、たまたま面白い形になったりするので楽しいと言ってました。作品作りは時間をかければいいものが出来るというわけではありません。偶然出来た奇妙さ面白さには、どんなに時間をかけて頑張ったところでかなわない。ボクも絵を描いていてつくづく思います。ただ、その偶然の面白さを見つけられるか、そこに少し手を加えて作品として完成させられるかがアーティストとしての腕の見せ所ではないでしょうか。大作とは違った緊張感のある空気をお楽しみ下さい。

一食即発

シツケニワキビシイ

対峙

 最後に、今後の予定等についてお聞きしたところ、「今は未定だけど、県外での個展もしてみたいし、写真の個展もしてみたい」と答えてくれました。とにかく、一つのことに囚われることなくいろんなことをやってみたい。そんな姿勢がボクとシンクロした今回の取材でした。

 そして、次回作を期待すると共に、【ゆるい展】にもぜひ出品いただき、アトリエ探訪でもいつかおじゃまさせていただきたいと思います。

取材協力:wake up gallery (ウェイクアップギャラリー)


もしよろしければ、御感想等頂けましたらうれしく存じます。掲示板へaaaa

aひのみね長屋に戻る__前のページへ 次ぎのページ アトリエ探訪へ__switch to English site__bluepageへ戻る 

Copyright Notice:(C) All rights reserved.

No part of this site may be reproduced or translated in any form without prior permission in writing from HINOMINE NAGAYA.

本ホームページのいかなる内容も無断で転載、引用を禁じます。転載、引用には「ひのみね長屋」からの書面による事前の了解を得る事が必要です。