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村上哲史のアトリエ探訪     5


 またまた幸田さんと二人で新しい企画を立ち上げる事になりました。というか、これは幸田さんの発案です。現在活躍中の作家が、どういう場所で、どんな道具を使い、何を考えながら、どういう風に作品を制作しているのかを知りたい、というのがこの企画の原点で、自分たちが知りたいのだったら他の作家たちも知りたいだろうから協力していただき易いのではないかということで始めました。

 相変わらず思いつきだけで行動する二人です。次はあなたのアトリエにおじゃまするかもしれません。その時はどうかよろしくお願いします。

 えっ、そんなことよりボクがどうやって絵を描いたり壺を焼いたりしているか知りたいって。それは今後のお楽しみということで・・・


Studio.1 平木美鶴さんのアトリエ
(徳島大学総合科学部人間社会学科絵画表現研究室)

 平木さんの制作分野は木版画。絵も描いていますが、それは二紀展への出品を誘われてからだそうです。上の作品は【二つの花】。「画面にエネルギーを入れてくれる活力のある色だから好き」というオレンジと黄色をベースに画面構成された典型的な平木さんの作品です。



 まずボクらが案内されたのは、学生たちが使っているアトリエ。流しに積まれた食器や水道に絡まる植物の蔓、どこかから拾ってきたようなソファーと彫刻用の回転台を二つ重ねて無造作に布をかぶせただけのテーブル。他人のアトリエを訪ねたのはこの時が初めだったボクには、何もかもが珍しく新鮮でした。

 平木さんのアトリエ(研究室)はその部屋の隣。共に天井が高く(新しい建築基準では、これほど天井は高くできないらしい)、部屋が広く感じられました。

 ただ、研究室の入口には3段の階段が・・・。平木さんが悪いわけではないのに、すまなさそうに何度も謝られながら車イスごと抱え上げて下さり、こちらの方が恐縮してしまいました。



 こうして平木さんのアトリエに入れていただき、真っ先に見せいてただいてのが描きかけの絵画作品の数々。板の上に適当なマチエルを付けながらアクリル絵の具を塗り、乾いたところでペーパーで磨き、また塗っては磨きを繰り返し、気に入ったところを残しながら下地を作り、そのうえに下地を生かせるように絵を描いていくというのが平木流。そのため作品によっては何ヶ月もかかるモノもあるようです。ただ、一枚一枚仕上げていくのではなく、描きかけのモノを引っぱり出してきては描き引っぱり出してきては描きしているそうです。この日はたまたまそれぞれの段階の作品があったので、それぞれについて説明していただき、とてもいい取材が出来ました。

 また、手前の金の石は河原で拾ってきた石に金箔を貼ったもので、本棚やテーブルの上にいくつも転がっていました。石を捜しに山に入ったりインターネットオークションで水晶を探したり、今、【石】に凝っているそうです。



 次に見せていただいたのは制作途中の版木の一つ。この作品では版木を8枚使うとか。そのすべてに同じ下絵を移し、色ごとに彫っていく。実に根気がいる作業だが、それ以上に初めの構想の段階できちんとした計算が出来ていなければならない。木版画というのは思っていたよりずっと大変みたいです。

 そしてまた、刷った後の版木の保管も大変そう。「一度試しに今までの版木を積み上げてみたら、この部屋の天井をゆうに越えてしまってびっくりした」と言ってました。


 これは、平木さんの秘密の道具。平木さんの版画に必ずと言っていいほど登場する小さな丸の密集は、これらの釘を使って作り出されたモノのようです。使い方は板金の打ち出しの要領。太さの違う釘を使い分けることによっていろんな表現が可能になるそうです。でも想像してみて下さい。釘と木槌を持ってコツコツコツコツ。なんか気の遠くなるような作業です。




 刷り上がった作品もたくさん見せていただきました。やはりカラフルな作品ばかりです。今後はどのような方向を目指しているか尋ねたところ、「今より過激でコミカルな作品を作りたいと思っている」と答えてくれました。



 最後に、前々から思っていた疑問をぶつけてみました。平木さんは徳島新聞で美術展評を連載していますが、県展や日展などアカデミックな美術展にはあまり触れようとしていません。それはなぜなのかということです。するとこう答えてくれました。

「アカデミックが悪いとは、思わないのですが、制作するという自由な世界を規制する動きは、好きではないのです。本来、それぞれ、皆、人とは違うものを持っているはずなので、好きに作れば良いのですが、絵とはこんなものという既成概念が世界を狭めているように思います。それを増長させている動きは、いただけません」

 そして帰り際には、平木さんが学生時代に描いた油絵も見せてくれました。タッチといい色使いといいボクの絵によく似ていて、皆さんにも紹介したい気分になりましたが、作家にはシークレットゾーンがあった方が魅力的なのでやめておきます。


平木さんのプロフィール

1958年  山口県に生まれる。
1981年  多摩美術大学卒業 (美術学部、絵画科油画専攻)
1983年  多摩美術大学院修了(美術研究科絵画専攻)

1983年  第51回日本版画協会展(日本版画協会賞受賞・準会員推挙)
1984年  二紀展(以後毎年出品、91年奨励賞、94年同人賞)
1995年  東京国際ミニプリントトリエンナーレ展,98年美術館賞
1996年  第7回浜松市立美術館版画大賞展(浜松市立美術館・奨励賞)
     文化庁在外一年派遣研修員(ロンドンに滞在)

現在  日本版画協会会員、二紀会同人、徳島大学総合科学部助教授

作品収蔵  神奈川県、クイーズランド公立美術館、エドモント州立アルバータ
大学(カナダ)、相生森林美術館(徳島)


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