美術評論:村上哲史のギャラリー拝見 ____________

ひのみね長屋に戻る_前のページへ_次ぎのページ_アトリエ探訪へ_switch to English site__bluepageへ戻る 

斎藤志津子イラスト展

2002年1月16日〜3月15日
徳島トヨタアトラツインギャラリー

 平日の誰もいない会場の南向きの窓からは、まだまだ浅く柔らかい春の光がここぞとばかりに流れ込み、ほのぼのとした心地よい眠気を誘います。左の作品は、斎藤さんのここ数年来のスタイル。今回も彼女の大好きな犬がたくさん登場し、車の展示場というエコノミックな雰囲気を春の日とともに和らげてくれていました。

 作品が展示されている南側の展示場と今回は車だけの北側の展示場の中間にある休憩ゾーン。土日祝日ともなればお客様で賑わうらしいが、平日はこの通り。ゆっくりと作品が見られます。

 奥の4点は、1980年代の作品。「この頃は子供をテーマにして描いていて、その子が今年はもう二十歳です」と感慨深そうに言っていました。

 このページの写真は実は取材に行った二日後に撮ったものだけど、当日はこの席で、斎藤さん流の画材の集め方(夫婦そろって「これは面白そう」と思ったら何でも拾ってるので家の中にはがらくたがいっぱい)や作品を造る工程(下書きを描いてきちんと構成するより、自由に描いてだんだん変化していくのが楽しい)、作品展を開く意味(締め切りが近づかなければ描こうという気になかなかならない。作品展を予定することで自分を追い込み作品を作るパワーにする)などについて、カメラマンの幸田さんを含む3人で約1時間あまり喋っていました。


ボクのお気に入り

「LOVE」

 不思議な感覚でした。絵画という平面空間の奥に現実味のないもう一つの異次元空間が広がっている。現実と異次元空間の間にこの絵があって、手をかざせば絵の中に吸い込まれていきそうな、そんな感覚でした。

 この絵は、ニューヨークのテロ事件のあと「自分にも何か出来ることはないだろうか」と思って描いたモノだそうです。2匹の子羊と絡まる葉、そして、だまし絵的な中央の「愛」の文字。「愛とは」「世界平和とは」と問いかけているかのような画面の背景に、一瞬、世界貿易センターにハイジャック機が突っ込んでいく映像がフラッシュバックされたような気がしました。

 しかし残念なことに、写真ではそこまで忠実に再現することは出来ません。上の画像だけでは、ボクがなぜこのような大袈裟な表現をしたのか理解しにくいと思いますが、実物を見ていただければ、なるほどと思っていただける、かもしれません。

 「かもしれない」というのは、この絵を見る場所、時間、照明の具合によって印象がずいぶん変わるからです。この絵はアルミ板の上に描かれています。ですから、周りの明るさによっても印象はかなり違ってくると思うし、温度や湿度によってアルミ板・フレーム自体が伸縮し、四辺を固定してある故に歪みが発生するために、照明の反射角度が刻々と変わるのです。ボクが見ているときは、真上の照明から放たれた光の帯が、微妙に歪みながら異次元空間を作りだしているように見えました。もしかしたら、ボクがあの日あの場所で見た絵は2度と見られないモノなのかもしれません。

愛語る時間空間去年今年(こぞことし)       哲史

 アルミ板は、印刷の版の失敗したモノをもらってきて、その裏を使うそうです。でも一度インクを付けてしまったモノは使えません。いくらきれいに洗っても、くすみが残ってしまうらしいです。当然、絵の具を塗るときも失敗は許されません。指紋を付けるのもダメですし、肘を当てるなどアルミ板に圧力がかかってしまうとすぐに変形し、その板自体が使い物にならなくなってしまいます。ですからアルミ板に絵を描くときは細心の注意が必要だそうです。また、これからもしばらくはアルミ板を使っていきたいと言っていました。


斎藤さんのお気に入り

born again

 この絵は、斎藤さんが可愛がっていた犬が亡くなったときに描いたものだそうです。それだけに、この絵に対する思い入れも強く、忘れられない作品になっているのではないでしょうか。もう一度目の前に現れてほしいという斎藤さんの思いが画面からにじみ出ているようです。

もしよろしければ、御感想等頂けましたらうれしく存じます。掲示板へa


aaaひのみね長屋に戻る_前のページへ_次ぎのページ_アトリエ探訪へ_switch to English site__bluepageへ戻る

Copyright Notice:(C) All rights reserved.

No part of this site may be reproduced or translated in any form without prior permission in writing from HINOMINE NAGAYA.

本ホームページのいかなる内容も無断で転載、引用を禁じます。転載、引用には「ひのみね長屋」からの書面による事前の了解を得る事が必要です。