美術評論:村上哲史のギャラリー拝見 ____________

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其の八

上月佳代展

「青いとき」

2002年3月16日〜24日
ウェイクアップギャラリー

 今回は彫刻です。上月さんとはこの日が初対面でしたが、とても気さくで美しい方で、楽しく取材することが出来ました。また、会場では意外な方に出会いました。

 今回の会場である「ウェイクアップ」の入り口付近。徳島市の東大工町にあるのですが、大きな看板も駐車場もなく植木の間を抜けたところにあり、しかも屋外にある階段を登っていってやっとギャラリーにたどり着くので、はじめ訪れる人の殆どが迷ってしまわれるようです。

 車椅子を押してくれているのは井浦徹二さん。このギャラリー拝見のページを見て共感し、今回からお手伝いしていただけることになりました。もちろんこのときが初対面です。彼は、車椅子を押すのは初めてだと言っていましたが、いろいろと気を使いながら押してくれていたので安心して乗っていられました。それに、彼が同行してくれたおかげで幸田さんが写真に専念でき、左のようなショットが取れるようになったほか、この後おとずれる狭くて急な階段も登ることが出来ました。


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 これがその階段です。今回の取材で一番の懸案事項はこの階段でした。幸田さんも井浦さんも車椅子の操作は素人です。しかもこの階段は狭くて非常に担ぎ上げにくい。最悪の場合、今回の取材は中止ということも検討しながらとりあえず階段の下まで行ってみることにしました。
 まず、近くにいた男の人に助けを求めます。そして四人で作戦会議。車椅子の前に二人と後ろに一人で何とかなるのではということになりました。このとき車椅子は前輪を上に上げ思いっきりウイリーさせた状態のまま後輪は宙に浮かさず階段に接触させたままひこずるようにして登っていきます。この方法をとると比較的楽に登ることができ、しかも途中で休むことだって可能なわけです。ただ、この方法はすべての車椅子利用者に有効なわけではありません。極端なウイリーを怖がる人も多いし、首か座っていない者や体が安定しない者などは逆に危険です。適正な介助の方法は一人一人違うわけですから介助される本人に聞くのが一番ということです。

 こうして、やっとのことでたどり着いたギャラリーには3つの作品がありました。
 まず、一番手前にあったのがこの作品「青いとき」。今回の個展のテーマも「青いとき」。将来への不安や悩みを抱え、傷付きながら、未来に向かって進んでいこうとする青年像の表現したといいます。全身の痛々しいまでの殴られた痕は、従来の彫刻と比べて表現がよりリアルで、ある種の恐怖を感じるとともに、ボクの感性と共鳴し自分自身が殴られているような錯覚に襲われました。そして、10年ほど前に亡くなった歌手の尾崎豊を彫刻にするとこんな感じになるのかなあと思えてなりませんでした。

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 このように、至る所に殴られた痕。殴りつけるのはもちろん作者である上月さんですが、これは、【作品】自身による自傷行為なのです。あるいは作者自身の自傷行為なのかもしれません。
 また上月さんは、「青い」という言葉には様々な意味が含まれているように思うと言います。そういえば、かなり昔のベストセラー小説に『限りなく透明に近いブルー』というのがありました。ピカソにも『青の時代』というのがあります。そして、自分にも悩み苦しんだ青春時代が確かにありました。作品を見ていると実に様々なことが頭の中を駆け抜けていきます。

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 この作品のタイトルは「オレンジグレー」。実際にオレンジグレーという色はないと思うんだけど、何となく雰囲気は分ります。やや日が差しかけたグレー、色彩があるようで無く、遠くに希望があるように感じるんだけどどうしていいか分らないままどんどん落ち込んでいく、そんな感じでしょうか。
 作品は、まずコンクリートの壁があって、そこにもたれかかっているとだんだん壁の中に埋もれていくという非現実的な表現になっていますが、この感覚も何となく分るような気がします。自分は何者なのか、この世に存在していいのだろうか。そう考えるとき物体としての自分がなくなって壁や床の中に溶け込んでいくような感覚になることがあります。それがまさにこの状態ではないでしょうか。

 

_ 作品とは対照的な真っ赤の服を着ているのが上月さん。「作品には表面的な性格とは逆の面が出る」という人がいますが、上月さんと作品を見ているとなるほどなと思います。

 上月さんのプロフィールです。



 1970 徳島市生まれ
 1991 女子美術短期大学卒業
 1995 49回ニ紀展 優賞
 1996 徳島大学卒業
      50回ニ紀展 奨励賞
 1998 第7回現代具象彫刻展
      52回ニ紀展 同人推挙
 2000 徳島大学大学院終了
      第15回国民文化祭
       ひろしま2000
       国民文化祭広島実行委員会賞

 

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 壁の後ろからは腕が出てきています。これもリアルさを追求した結果でしょうか。_

 

12 ギャラリーの一番奥に足を投げ出して座っているこの作品のタイトルは「グレーなとき」。肉体的にも精神的にも疲れきってどうしようもないという感じでしょうか。やはり全身に殴られた痕。シャープな線は角材で殴りつけた痕、円い凹みは金槌の痕だそうです。ボクも陶器の壺を殴って凹ませていますが、ここまで思い切った殴り方は出来ません。凄
いなぁと思います。
 また、今後どういうモノを作りたいかと質問したところ、「今のスタイルを続けながら樹木をモチーフにした抽象的な作品にも取り組みたいし、青年の内面(精神)的な表現ではなく、中性的な面もクローズアップして表現してゆけたら・・・」と答えてくれました。5月1日からは阿波銀ギャラリーで徳島二紀のグループ展があります。もしかしたらそこで新作が見られるかも。楽しみです。

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 一通り作品を見終わって帰ろうとしたとき、そこに立ちはざかったのがこの階段。ウェイクアップはギャラリーとしてはとてもいい空間で、面白い企画をたくさんしているのですが、この階段があることでいつも行くのを躊躇してしまいます。今回は思い切って上がってみたけれど、もしも途中で誰かが足を滑らせでもしたら車椅子を抱えている全員が共倒れになってしまうわけですから、命がけです。とは言ってももう上がってしまってるのだから降りないわけにもいきません。ここでまたまた作戦会議です。
 なんか少しオーバーに書き過ぎました。実は車椅子で階段を降りるのは上るよりも楽なのです。車椅子に乗っている者の状態にもよりますが、熟練者なら一人で降ろすことも可能なぐらいです。その方法は、登りと全く同じ。まず車椅子を思いっきりウイリーさせてそのままバックで一段ずつ降りていくわけです。一段降りるたびにガタンッガタンッと強い振動がお尻に響きますがそこはご愛敬。3人もいれば簡単に降りられるわけです。ただ上がるときにも書いたように、この方法が向かない人もいます。介助の方法は本人に確認してから行ってください。

 

 左の写真に写っているご家族は、ギャラリー拝見3回目におじゃました『春夏秋冬の器展』の西昌代さん御一家。会場の中で偶然お会いしました。上月さんが西さんに陶芸を教わっているということで見に来たらしいのですが、実は、ボクらと西さんはこのときが初対面。第3回のギャラリー拝見は電話と手紙でのやりとりだけだったから顔も知りません。そんなボクらに西さんの方から声を掛けてくださいました。世間は狭いものですね。ほんと驚きました。しかも、階段の上り下りを手伝ってくださったのが西さんの旦那さんだったなんて、その時は露ほどにも考えていませんでした。不思議な巡り合わせです。

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 こうして今回の取材も無事終了しました。井浦さんの参加で一段とパワーアップしたギャラリー拝見。次回はどこのギャラリーにおじゃまするのか。乞うご期待!


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