美術評論:村上哲史のギャラリー拝見 ____________

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其の10

Tシャツアート展 2-2

2002.7.19(金)〜21(日)

ヨンデンプラザ徳島2Fヨンデンギャラリー

れもん工房のメンバー + 西山きんこsan

 彼らの作品は絵ハガキとしても販売されていました。1枚100円。これも1つの商品化の方法とは思いますが、価格は安いし大量に売れるモノでもありません。儲けを考えるとイマイチの商品です。そこで、この作品自体を企業などに売り込んではどうかという話になりました。企業に製品のキャラクターとかカレンダーなどの販促グッズのデザインとして使ってもらうわけです。

 Tシャツだってそうです。この日は飛ぶようにたくさん売れていましたが、いつもいつもたくさん売れるとは限りません。それに今のところ、カタログでの通信販売と、鳴門のR&Sさんという服屋さんでの販売を予定しているだけのようです。これだけで果たして月に何枚売れるだろうかと心配してしまいます。商品としては良いモノが出来ているのだから、もっともっと販路を拡大するための営業活動に力を入れるべきではないかと思いました。そして運良くよく売れて生産が追いつかなくなった場合は、一般のプリント工場に生産を依頼すればいいだけですから。

 手前のお二人は、Tシャツのデザインをしていただいたというデザイナーさんご夫婦。以前はユニクロのデザインも手掛けていたという専門家で、この日は愛媛から駆けつけていただいたそうです。

 Tシャツの商品化に向けては、西山さんもデザイナーの一人として関わっていました。そして、デザイナーとして彼らの作品に手を加えるときの心境を自身のホームぺージの中で次のように語っています。「イラストレーターとして仕事をしている私は、彼らを自分の仲間(イラストレーター)として使ってみることにしようと考えることにした。彼らが気のむくままに描きなぐったアートやイラストをそのまま使うのではなく、デザイナーの手を借りて、デザインしてもらおう。アート作品として発表するのではなく、商品として売り出していくのなら、それも許されることではないかと。そう考えると、今まで私の中でタブーとしていた彼らの作品に手を加えるという行為が、肯定されたような気がして急に楽になった」

 現在『コラボレーション』という言葉が結構もてはやされています。音楽家と画家のコラボレーションとか作家と経営コンサルタントとのコラボレーションとか、職種の違う者同士が協力し合って一つのモノを作り出すことのようです。でも、これって昔から一般的によく行われていることですよねぇ。例えば、作家は編集者がいて初めて本が作れるわけだし、画家は画商がいて初めて絵が売れるわけです。商品化のためにお互いが納得した上で改良することは、当たり前のことだと思いますよ。

 ここからは『ギャラ』の話をしたいと思います。「現在、彼らはいくらギャラを貰っているのだろうか」ボクの関心はそこに行き着きました。西山さんにも質問してみましたが「お金のことは施設の職員に任せてあるので分らない」とのことでした。Tシャツが売り出されたのはこの日が最初だということで、「れもん」の収入もそんなにはなかったはずです。とはいうものの「れもん」は授産施設。そこの利用者は一応働きに来ているわけですから、いくらかの月給を貰っているはずです。おそらくは手取りで4000円〜5000円程度よくて1万円前後というところでしょうか。多分今これを見ている一般の方は「えぇー!そんなんでどうやって生活するん?」って驚かれていることと思いますが、福祉の世界ではこれが普通なんです。施設側には国や県から補助金が下りていますから、職員にはそれなりの給料は支払われていると思います。でも利用者には日当程度のお給料。そしてそれを「仕方がない」の一言ですますことが定説になっている現状。それどころか家族でさえも「家にいて何にもしないよりか、まし」と言い切ってしまう始末。でも月給が1万円そこそこじゃー、働く意欲も湧きませんよね。「せめて10万円ぐらいは」なんてボクなんかは思ってしまいます。

 今回のTシャツ展とこれからの生産・販売は、上のような状況を打破するために始められたのだと聞いています。そのためには、もっともっと営業に力を入れて販売ルートを拡大し、イラストレーターとしてのギャラを出来るだけたくさん渡せるよう努力して欲しいと思います。

 販売促進の一つの方法として『webでの販売』を提案してみました。これならば低コストで世界中からの注文が受け付けられます。注文をもっと増やしたければ、『楽天市場』などの有名ショッピングモールに出店すると売り上げは格段に伸びるはずです。西山さんもそういうことはよく分っていて、「施設の方にも年中言っているんだけど、なかなか実現するまでが大変なんよな〜」と言っていました。

 確かにそうなんです。「れもん」がどうのというのじゃなくて、一般的に福祉関係の人は機械にも疎いし、商売にはもっと疎い人が多いようです。中には「福祉とお金は切り離して考えなければならない」なんて言う人もいるし、補助金を多く請求して自分だけチャッカリお金儲けをしている悪徳施設も一部にはあると聞きます。多分ほとんどの福祉関係者は障害者のことを思い一生懸命やっているんだろうけれど、哀しいかな商売のノウハウを持っていないために利用者に適正な給料を払えないでいるのが授産施設や小規模作業所と呼ばれる施設の経営の実体みたいです。どちらにせよ利用者には迷惑な話ですね。

 なんか偉そうなことをいっぱい書いてしまったけれど、かく言うボクも商売のノウハウなんて全く知らないし、福祉についても自分が車椅子に乗っているというだけで何にも分っていないのかもしれません。けれど、今回のTシャツ展でこれだけははっきり分りました。"イラストレーターとデザイナーがコラボレーションすることでプリントTシャツというどこで売っても恥ずかしくない商品が出来上がりました。ならば、福祉のプロと商売のプロがコラボレーションすることで授産施設や小規模作業所の経営はもっと巧くいくのではないだろうか"一筋の光明が見えたような気がしました。

 Tシャツ展が終わった後、何日かして西山さんからメールが届きました。「今回やってみて、何より驚いたのが、メンバーの変化。Tシャツになることを意識して、絵を描くということをし始めたので私自身ちょっと、考えてしまってます。いろんな意味で・・・彼らはもっと、自分の作品に執着しないものとばかり思ってたんですけど。作品展とかで、発表した時にはそれほど反応しなかったのに、Tシャツとして商品化したらこんなに敏感に反応が返ってくるとは・・・。それだけ、身近になってくるんでしょうね。きっと。でもこれはメンバーだけじゃなく保護者の意識も同じでした」
 早くもいい傾向が出てきているようですね。「れもん」の試みが成功することを期待しています。


僕のお気に入り作品(1)

「星空」


 会場に並んでいたTシャツの中で一番「着てみたい」と思ったのが、このTシャツでした。黒、赤、青、白、黄色。ボク好みの色合いとタッチ。それに原画では横に並んでいたモノを、逆さまにして縦に並べたのが気に入りました。「星空」という文字の入り方も好きです。とにかく、欲しいと思ったときが買い時で、少々サイズは小さめだったけど思い切って買いました。もしも着れなかったら部屋に飾って眺めるのもいいかと思ったけれど、着てみるとぴったり体にフィット。「アトリエ探訪」の取材にも着て行ったんですよ。今度の「アトリエ探訪」を楽しみにしてくださいね。


僕のお気に入り作品(2)

「無題」

 入り口付近の床から30cm程の高さでイーゼルに立てかけてあったこの作品。車椅子に乗っているボクの目線と同じ高さであったせいか、会場に入るなり真っ先に目に飛び込んできました。見てのとおりハーフトーンのラインが数本あるだけのシンプルな作品ですが、ラインの力強さと美しさに体ごと引き寄せられていきました。このラインは引こうと思ってもそう簡単に引けるモノではありません。タイトルは「無題」。まさに「無」の境地が引かせたラインだと思いました。

 「これをデザインしたTシャツがあれば絶対に買いたい」と思っていました。しかし探せど探せど見つかりません。でもやっぱり欲しかったので西山さんに尋ねると、「これなぁ、私も一番気に入ってる作品なんやけど、大きすぎてスキャナーで取り込めんかったんよぉ。いろいろやってみたんやけどなぁ」と残念そうに言っていました。ボクもほんとに残念。くぅー!


お・ま・け

 この日の取材の後、次回の「アトリエ探訪」でおじゃまする桑原健一さんの作品が、徳島市沖の浜のお好み焼き屋『粉屋』さんにあるというので昼食を兼ねて行ってきました。

 『粉屋』さんは、イタリア料理『ボッタ』の跡にできたとあって、外観も内装もほとんど『ボッタ』のまま。それどころか店員さんの制服も『ボッタ』のままだったばかりか見たことがある定員さんも居たような気がしました。そして、何より特記すべき事は「非常に美味しかった」ということ。ほんと絶品でした。

 桑原さんは、相変わらず面白いモノを作っています。出来上がったモノを見ると誰にでも作れそうに思うけれど、やってみるとなかなか難しい。ましてや発想自体そう浮かぶモノではありません。これが芸術の奥深さ、かな。次回の「アトリエ探訪」がとっても楽しみです。


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